✦ 10月23日の株価の反応
終値基準、前日比
10月23日の米国株式市場で、通信タワー運営会社のクラウン・キャッスルの株価は9.06%、アメリカン・タワーは4.08%上がった。一方、AT&Tは7.96%、Tモバイルは7.71%下落した。
通信サービス会社と、通信インフラを貸す会社の株価が、正反対に動いたのだ。
その原因は、スペースXが、米国全域で最低8万か所の「セルサイト」を利用するために、主要な通信インフラ企業と交渉中だという、10月22日の報道だった。クラウン・キャッスルも、交渉の対象のひとつとして名前が挙がった。
まだ、スペースXがセルサイト8万か所の確保を公式に発表したり、賃貸契約を結んだりしたわけではない。でも、市場は、通信タワー分野に新しい大型顧客が現れるという期待に膨らんで、反応したのだ。
ちなみに、セルサイト(cell site)は、移動通信機器を設置した場所を意味する。わかりやすく言えば、携帯電話が通信会社のネットワークにつながるよう、アンテナと無線機器などを設置した基地局の施設だ。
スペースXは衛星会社なのに、地上の基地局がなぜ必要なのか
✦ 衛星と地上網、役割分担
お互いの代わりではなく補完
スターリンクの強みは、地上の基地局が届きにくい地域まで、衛星でつなげられることだった。ところが、今回スペースXが狙っているのは、衛星インターネットにとどまらず、既存の携帯電話会社のように、直接顧客に通信サービスを提供することだ。
衛星接続と地上網は、必ずしもお互いを置き換える関係ではない。衛星は広い地域をつなぎ、地上の基地局は、都市部の通話量とデータ需要、屋内の接続を担当するという具合に、役割を分担して、お互いの弱点を補える。
これがまさに、スペースXが進めている方式だ。
✦ 周波数とセルサイト
通り道と拠点
ここで重要な資産が、周波数だ。スペースXは、10月8日、通信インフラ投資会社の「グレイン・マネジメント」の800MHz帯の周波数ライセンスのポートフォリオを買収することに合意した。(米連邦通信委員会(FCC)の承認など、仕上げの条件は残っている)
報道では、取引規模が約80億ドルと取り上げられた。ただ、周波数の使用権を確保したからといって、信号を送る場所まで自動でできるわけではない。地域ごとに利用者をカバーする位置を決め、機器を設置したあと、電力と通信をつながなければならない。
周波数が通信の通り道なら、セルサイトは、その通り道を実際のサービスに変換する拠点だ。
通信タワー会社は、通信会社に施設を貸す
✦ 通信タワー会社のビジネスモデル
施設を貸して、賃貸料をもらう
クラウン・キャッスルやアメリカン・タワーは、携帯電話の料金プランを販売する会社ではない。通信機器を設置できるタワーと敷地を運営し、携帯電話会社にその空間を貸して、賃貸料を受け取る。
一つのタワーに、複数の会社のアンテナと機器が入れるので、既存の施設にテナントが追加されれば、新しいタワーを建てなくても、売上を増やす余地が生まれる。
クラウン・キャッスルによると、2025年末基準で、タワー1基あたりの平均テナントは約2.4社だった。通信市場は参入障壁が比較的高くて、新しい顧客の確保が難しいよね。だから、売上が増えるのにも限界がある。
ところが、すでに建て終わった通信タワーに、スペースXのような大型の会社が顧客として入ってきたら? 通信タワー会社は、歓声を上げるしかない。
✦ 8万か所の規模
8万か所は目的型の通信タワー数の半分に近い。ただ、セルサイトにはビルの屋上なども含まれ、8万か所がすべて通信タワーではない
つまり、スペースXが目標にしたセルサイト8万か所が、実際の賃貸につながれば、通信タワー会社には、かなりの新規需要になる。米国で運営される目的型の通信タワーは、昨年約158,500基だった。8万か所なら、その数の半分に近い。本当にすごい規模だ。
ただ、「セルサイト」には、ビルの屋上なども含まれうるので、8万か所がすべて通信タワーを指すわけではない。そして、その全部を「クラウン・キャッスル」からだけ借りるわけでもない。それでも、とにかく、通信タワー業界にとっては、興奮するに値する出来事だ。
一方は競合を見て、もう一方は顧客を見た
既存の通信会社の株主にとって、スペースXは潜在的な競合だ。新規事業者が加入者を奪っていけば、既存の会社は、料金やサービスの特典で対抗しなければならず、ネットワーク投資とマーケティング費用も増える。
それで、10月23日のAT&TとTモバイルの株価は、終値基準でそれぞれ7.96%、7.71%下落した。通信会社の株価の動きが、もともと他の業種に比べて安定的だということを考えると、かなりの下げ幅だ。
一方、通信タワー会社は、株価が上がった。ただでさえ業績があまりよくなかったのに、好材料が飛び出したのだから。たとえば、クラウン・キャッスルの2026年第3四半期のサイト賃貸売上は、9億6,600万ドルで、前年同期より4.5%減った状態だった。
期待が業績に変わるには、まだ過程が残っている
✦ 通信タワー運営会社と携帯電話会社の株価の推移(10/12=100)
2026-10-12〜2026-10-23、通常取引の日次終値基準の相対指数。線は目盛りから読み取った概算
クラウン・キャッスルのCEOは、業績発表の場で、「スペースXやアマゾンなどの衛星事業者と賃貸交渉をしているのか」という質問に、ただ「すべての当事者と話していると考えてもらっていい」という趣旨でだけ答えた。まだ明確に明かす段階ではないということだ。
果たして、スペースXの計画がきちんと進められるのかへの疑問もある。TD Cowenは、全国規模の地上移動通信網を構築するのに、800億ドル以上かかりうると試算した。
しかも、周波数取引の規制承認、基地局の設置、ネットワークの構築などが、実際に進まなければならない。
✦ 投資家が見守ること
交渉が業績に変わるかを確認するポイント
ひとまず、通信タワー会社の投資家が見守るべきは、「交渉が実際の長期賃貸契約につながるか」が最優先だろう。
それに加えて、通信タワー会社がスペースXとの契約で得る賃貸料が、設備補強費用など追加で発生する支出を考慮しても、十分な利益を残すか確認しなければならないだろう。
正確な契約規模と条件、構築の日程が公開されるまでは、8万か所という数字だけで、長期の収益を計算することはできないから。
これは投資助言じゃないよ。わかってるよね?大切なお金は自分で守ろう。
今回はここまでにするよ。また会おう。
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